ここ最近、愛奇芸のサスペンス「迷霧劇場」シリーズが好調です。「迷霧劇場」は2020年第二四半期に愛奇芸の推し出しているサスペンスシリーズで、これまで何十話もあった中国ドラマとして短めの12話ほどの話数で本格的な作品を展開しています。2018年の「奇懸疑劇場」から全面的にアップデートしたシリーズになっています。
今のところの「迷霧劇場」のラインナップは下記5作品。
出演者も非常に豪華で、配信されるとどの作品も高評価を得ています。
2021年も引き続きこの枠の作品が配信予定になっています。
十日遊戯
出演者:朱亜文,金晨,耿楽,劉奕君,徐棵
配信開始日:2020/06/02
隠秘的角落
出演者:秦昊、王景春、栄梓杉、史彭元、王聖迪、劉琳、張頌文、芦芳生、李夢、黄米依
配信開始日:2020/06/16
非常目撃
出演者:宋洋、袁文康、尤靖茹、焦剛,王瀧正、杜志国
配信開始日:2020/08/18
在劫難逃
出演者:王千源、鹿晗、斎溪、喬欣、呉越、張皓然
配信開始日:2020/09/02
沉默的真相
出演者:廖凡、白宇、譚卓、寧理、黄堯、趙陽、田小潔、呂暁霖
配信開始日:2020/09/16
中でも「隠秘的角落」は劇中の台詞が流行語にもなり、社会現象となりました。今年のトップは「隠秘的角落」か…と思っていたところにとんでもない作品が降臨してきました。それこそが本記事の「沉默的真相」です。「沉默的真相」も配信が始まるやいなや豆瓣で9点以上を叩き出します。配信が進むにつれ評価がじわじわと下がっていく作品もあるのですが、「沉默的真相」は、綿密かつ繊細に練り込まれたストーリー展開と出演者たちの迫真の演技が最後まで視聴者を離すことはありませんでした。
なかなかセンシティブな事件を題材にしていて、市内トップの企業経営者と黒社会、刑事との癒着なども描かれています。よく中国で映像化できたなぁとただただ感心するしかありません。事件を追っていた若き検察官の死が大きな事件を紐解く鍵となるのですが、そこに至るまでの物語は息をのむ展開です。
原作は紫金陳の「長夜難明」。紫金陳といえば、上述の「隠秘的角落」の原作「壊小孩」や「無証之罪」など重厚なミステリー小説を数々世に出している人気作家。「長夜難明」というタイトルの通り、闇の中に次々と消えていく真実を追う主人公たちの姿が印象的です。
遺体となって発見される元検察官・江陽を演じた主演の白宇は、「微微一笑很傾城」「鎮魂」「紳探」などに出演してきた若手人気俳優。「微微一笑很傾城」の時は脇役で、パーマ頭のチンチクチンな役(失礼)。この後どうなっていくかな…と思ってたのですが、パーマ頭じゃなくなったら雰囲気が全く違くて驚いた記憶があります。
「沉默的真相」は、江陽はなぜ死んだのかという謎から、彼が生前追っていた事件が紐解かれていく。江陽が正義をかけて事件を調べ真実に迫ろうとすると、事件の裏に潜む巨悪がじわじわと江陽を追い詰めていきます。うまく行かないもどかしさ、それでも正義のために調査をするけれども、疲弊して心身ともにボロボロになっていく江陽…白宇の演技はとにかく震えます。特に後半、10話の財布のシーンはあまりの凄まじさに心が掻きむしられる。そこから最終回にかけては自身の精神力との戦いでもあります。あの江陽という役を演じきった白宇には脱帽です。もし自分なら精神崩壊するでしょう。もっと凄いと言いたいのですが、ぴったりな表現が思いつかず…語彙がなくすみません。
もう一度じっくり観たいけれど、なかなかにメンタルを削られる作品なので、思い出した頃に観ようと思います。傑作と呼ぶに相応しい作品です。是非視聴してみてください。
目次
作品情報
原題:沉默的真相
英題:THE LONG NIGHT
監督:陳奕甫
脚本:劉国慶
出演:廖凡、白宇、譚卓、寧理、黄堯、趙陽、田小潔、呂暁霖
話数:12話
中国配信開始:2020年9月16日(愛奇芸「迷霧劇場」独占配信)
あらすじ
2010年、地下鉄の駅に謎のスーツケースを持った男が現れる。荷物検査を拒否した男はスーツケースの中身は爆弾だと言い地下鉄に立てこもる。駆け付けた刑事らが男を制圧するが、スーツケースの中身は爆弾ではなく元検察官の江陽の絞殺体であった。逮捕された男・張超は、取り調べでは容疑を認めていたものの、裁判で供述を一転、殺していないと容疑を否認する。刑事巌良らは捜査を始めた矢先、江譚晩報の記者・張暁倩の元に匿名の手紙と写真が届く。手紙によると、3日ごとに写真を9分割した内の1枚が新聞社に届き、24日後写真が揃う時、事件の真相が明らかになるという。巌良らが被害者江陽の足跡をたどるうちに、10年前に遺体が発見された侯貴平の事件、そして侯貴平事件の真相の裏にある江譚市内トップの大企業卡恩集団が関わるとある犯罪の事実が明らかになっていく。
※【請注意】登場人物紹介の後、ネタバレがあります。
主な登場人物
厳良(廖凡)
2010年に発生した地下鉄遺体遺棄事件の捜査チームの副班長。鋭い洞察力と観察力を持つ刑事で、巌良に解決できない事件はないと言われている。
江陽(白宇)
江華大学政法系研究生を卒業した後、検察局で勤務し、若くして科長となった。2003年、李静が侯貴平の死の真相を調べてほしいと訪ねてくる。その場にいた当時の交際相手・呉愛可に説得される形で、2000年に亡くなった侯貴平について再調査することになる。2010年、地下鉄遺体遺棄事件の被害者となる。
李静(譚卓)
張超の妻。江陽と侯貴平の大学の同級生で、侯貴平が亡くなる直前まで交際していたことが発覚する。
張超(寧理)
弁護士。2020年に地下鉄遺体遺棄事件を起こし、江陽の殺人と遺体遺棄容疑で逮捕される。当初は殺害も認めていたものの、裁判で供述を一転、殺人容疑を完全否定する。
朱偉(趙陽)
陳明章の紹介で江陽に出逢った敏腕刑事。江陽らとともに侯貴平事件を調べ始める。
陳明章(田小潔)
侯貴平事件の検死を行った法医。江陽に真の検死報告書を渡し、事件調査に協力するようになる。
ネタバレ
※【請注意】以下、詳細なネタバレがあります。
地下鉄遺体遺棄事件
2010年、江譚市の地下鉄三号線の駅で大きなスーツケースを持った男が中身は爆弾だと言い、騒ぎを起こす。男は確保されるが、スーツケースから江陽の絞殺体が発見される。逮捕された男・張超は江陽の殺害を認めていたが、裁判で供述を一転して否認する。張超は犯行時北京でのアリバイがあり、事件は振り出しに戻る。
刑事巌良らは捜査を始めるが、江譚晩報の記者・張暁倩の元に真犯人からと思しき匿名の手紙と写真が届く。手紙によると、3日ごとに写真を9分割した内の1枚が新聞社に届き、24日後写真が完成したら江陽殺人事件の真相が明らかになるという。しかし、受け取った写真を新聞に載せなければ市内のどこかで爆発が起きるという”九宮格ゲーム”だと書かれていた。巌良らは江陽について調べ始め、彼の遺留品の中に侯貴平という人物の身分証コピーを見つける。そして江譚晩報に届いた手紙の署名HGPが侯貴平(houguiping)であると気付くが、侯貴平はすでに死亡していた。
侯貴平事件
江華大学政法系研究生を卒業し、平康県検察院の検察官となった江陽のもとに、大学時代の同級生李静が訪ねてくる。李静のかつての恋人侯貴平は2年前教育支援で赴任した苗高郷で強姦をした上に沼で入水自殺したのだが、李静は、侯貴平は自殺ではなく何らかの事件に巻き込まれたのだという。江陽は、父が検察長を務め同じく検察官である交際相手・呉愛可に背中を押され、侯貴平事件を調査し始めるが、平康県公安局の隊長・李建国に阻まれる。それでも調査を続ける江陽は、侯貴平の検死を担当した法医・陳明章を訪ね、本物の検死報告書を入手、報告書が改ざんされているという事実を知る。侯貴平事件には新たな証拠もなく、検察院は立件できないものの、丁検察長は個人として江陽の捜査継続を支持していた。
時は戻り2010年、巌良は李静を訪ね、侯貴平事件のいきさつを聞く。10年前、侯貴平は教育支援のため苗高郷に赴任しており、李静はその当時の交際相手だった。ある日の夕方、学校が終わった後、侯貴平は地元の工場で働く翁美香がチンピラの岳軍(通称、黄毛)に連れていかれる場面に出くわす。その翌日翁美香は学校の女子トイレで自殺してしまう。翁美香の自殺に黄毛が関係していると踏んだ侯貴平は通報するも、通報を聞きつけた黄毛が侯貴平の家に押しかけ襲撃する。仕方なく侯貴平は個人的に事件を調べ始めたのだった。
侯貴平が殺害された夜、黄毛が酒とつまみを持って侯貴平の家に暴行の侘びに来ていた。2人で酒を飲んでいると、黄毛はおもむろに金を出し侯貴平に通報をやめるように言う。激怒した侯貴平は黄毛を追い出す。侯貴平は翁美香の助けを求める眼を思い出し自責の念に駆られる。そして眠りにつこうとしていると丁春妹がお湯を借りにやってくる。その場面を、映画の帰りの女子生徒李雪が目撃していた。翌日、侯貴平の遺体が沼で発見されたのだった。
次々と消されていく証人と証拠
江陽は独自に調査を続けていた。しかし、手がかりはなく脅迫も受けるようになる。陳明章は、刑事の朱偉を捜査に引き込む。朱偉は、江陽らに以前侯貴平はハメられたという匿名の電話を受けたことがあったことを告げる。江陽と朱偉は、侯貴平に強姦されたという被害者の丁春妹を訪ねる。朱偉は、再婚もしておらず子どもがいないはずの丁春妹を母と呼ぶ男の子に疑問を抱く。するとその場に黄毛が乱入してくる。朱偉が黄毛を車に押し込めている間に江陽が丁春妹を問い詰め、もう少しで黄毛が金で指示したことだと丁春妹が自白しそうになった瞬間、黄毛が車から逃げ出し尋問に割り込み、尋問は中断されてしまう。
後日、江陽が再び丁春妹を訪ねると彼女は失踪していた。黄毛を捕まえ、背後に潜む李建国、そして市内のトップ企業・卡恩集団の董事長の孫伝福、その部下の胡一浪を連行するも尋問はできなかった。黄毛が残された手掛かりだと考えた江陽と朱偉が慌てて苗高郷へ向かうと、黄毛が口止めのために殺されそうになっていた。黄毛を助け出した2人は、黄毛が卡恩集団のために若い処女の娘たちを性賄賂として物色していたこと、その秘密に侯貴平が気付いたために彼は殺されたということを白状した。朱偉は黄毛の供述を録音しており、公安局で尋問をしようとしようとしていたところに李建国の妨害が入る。上官である李建国との衝突の末、朱偉は警察学校3年に送られることになってしまった。
3年後、朱偉が警察学校から出てくると、江陽は結婚し、陳明章は法医を辞め起業していた。そんなある日、江陽が失踪した丁春妹の手掛かりを掴む。別件で逮捕された何偉が減刑のため、王海軍が苗高郷の女性を殺し遺体を遺棄したと暴露したのだ。朱偉は遺体を発見し王海軍を逮捕するが、またしても李建国が現れ、王海軍を強制的連行、さらには李建国が尋問を行っている際に王海軍は死亡してしまう。江陽は遺体安置所に向かい、王海軍の身体を調べると、彼が殺害された証拠である新鮮な注射痕が残っていた。しかし、江陽らが遺体から離れた隙に、遺体は金を渡された家族によって荼毘に付されてしまい、また証拠はなくなってしまう。
投獄される江陽
江陽は妻と子どもに危険が及ぶことを案じて離婚を選ぶ。そんなある日、胡一浪は江陽を高級ホテルの一室に招待し、金を渡し女をあてがって調査を止めさせようとする。江陽は拒否したものの、室内は盗撮されており、さらには後から江陽の自宅に胡一浪の手下が30万元を隠していた。張超が江陽の弁護を担当したものの、結局は賄賂を受け取った罪で江陽は3年間投獄されてしまう。出所した江陽は、陳明章の支援で携帯修理店で生計を立てていた。ある日、呉検察長が江陽の店にやってくる。呉検察長は、侯貴平が当時残した性犯罪被害者の名前が書かれたメモと写真を江陽に渡す。この証拠をもっと早く入手出来ていれば事件を解決できたと江陽は失望する。江陽、朱偉、陳明章の3人がいつものように揃って食事をしていると、江陽が自分の財布をなくしたことに気付き動転、これまでの艱難辛苦もあり泣き始めてしまう。すると、江陽は血を吐いて倒れる。江陽は末期ではないものの、肺がんを患っていた。
最後の証人
巌良はついに朱偉を見つけ出し、「事件のことは自分にまかせてほしい」説得する。朱偉は尋問の際、なるべく多くの高官がその場に参加することを条件に厳良に連行された。尋問の場で、朱偉は9枚に分割され江譚晩報に送られていた写真について語り始める。侯貴平の死を決めたこの写真は、2000年10月25日に麗景酒店で撮影されたもので、写っていたのは公安局の李建国、卡恩集団の孫伝福と胡一浪、性被害者の葛麗、そして元清州市副市長秦大川の娘婿・曾祥東だった。侯貴平が遺した性被害者のメモにあった3人のうち、翁美香は農薬を飲んで自殺、葛麗は精神病院にいたが数日前に何者かに連れ去られたという。実は丁春妹のもとにいたは男の子は葛麗が性被害を受けた時の子どもだという。そして最後に残された証人李雪は、なんと江譚晩報の記者・張暁倩であった。江陽と朱偉は李雪が改名していることに気付き、張暁倩を探して当てていたのだった。苗高郷に身を隠していた張暁倩を連れて公安局に戻る途中、巌良らは胡一浪らの襲撃を受けるも、最後は犯人らを捕まえる。そして張暁倩は公安局で、侯貴平殺害現場の証言をしたのだった。
地下鉄事件の真相
2009年8月6日、江陽は朱偉、陳明章、張超、李静を集め、余命が5ヶ月であることと自殺すると決めたということを伝える。そして自分の死後、侯貴平が撮影した写真や性犯罪の被害者名をネットに公表し拡散することで事件への注目を集め、逆転の機会を作るという。朱偉や陳明章が反対する中、張超は江陽を手伝うと告げた。
2009年9月9日、再び一同は集まっていた。張超は地下鉄遺体遺棄と侯貴平が撮影した写真を9枚に分割しての”九宮格ゲーム”の綿密な計画を練っており、その目的は世間の注目を集めること、そして巌良を捜査班に引き込むことだった。そしてその場に現れたのは、朱偉から計画を聞き自ら協力を決めた張暁倩だった。
2010年3月9日、決行の日。陳明章は江陽の自殺のために設置した装置の説明をしていた。江陽、朱偉、陳明章は最後の別れを告げる。日付は変わり2010年3月10日、張超は江陽を殴り首を絞め、初動捜査で殺人の容疑が自分に向くよう証拠を残した。2010年3月11日、張超は北京へと発ったのだった。
張暁倩は、江陽が死の直前に撮影した動画を公安局の面々に見せていた。
その動画には、7年間あきらめずに事件を追ってきた江陽の苦しみと葛藤、それでも無念はないという思いが語られていた。そして事件を引き続き調査して侯貴平の無実を証明してほしいと告げ、江陽は自らの命を終わらせる装置のスイッチを入れた。
曾祥東がまず逮捕され、卡恩集団の闇が暴かれると孫伝福は自殺、李建国も逮捕され、事件はついに明るみとなったのだった。