2020年冬、新型コロナウィルスの流行で数々の映画が公開延期となってきました。現地にいるわけではないですが、中国ではコロナも落ち着いた様子で、すっかりコロナ前と変わらないような生活を取り戻しつつあるのではないでしょうか。コロナで大打撃を受けた業界の一つである映画業界も、8月頃には徐々に映画館が営業再開し始めていました。そんな下降気味だった中国映画の起爆剤となったのが8月21日に中国全土で公開となった「八佰」でした。
「八佰」は公開5日目で興行収入2.34億元を突破し、8月31日には20億元に到達。公開期間も延長され、9月26日には30億元を記録し、昨年のヒット作「我不是薬神」(30億元)を超え、中国歴代興行収入第9位にランクインを果たしました。コロナの影響が残り、映画館が完全に営業再開をしていない中でも売上を伸ばし、大ヒット作となりました。
そんな大ヒットを記録した「八佰」は一体どんな映画なのかというと、日中戦争中の1937年に勃発した第二次上海事変(淞滬会戦)最後の戦いである「四行倉庫の戦い」を描いたゴリゴリの戦争映画です。この四行倉庫を守った中華民国国民革命軍第88師524団謝晋元以下400名余り(対外的には800名と発表していた)の兵士たちは「八百壮士」として知られており、映画のタイトルになっています。近現代史は好きなのですが、歴史研究者などではないので、第二次上海事変や四行倉庫の戦いの詳細については文献などをご参照ください。
「八佰」はもともと2019年7月5日に公開される予定でしたが、直前に”技術的問題”で公開延期となっていました。この”技術的問題”は中国コンテンツ業界では珍しくない話。映画だけでなく、ドラマやバラエティでも理由になっていない理由で公開延期になったり、放送停止になったりしてガックシなんて経験は中国エンタメを楽しんでいる人なら一度や二度ではないはず。「八佰」の”技術的問題”は、国民党の美化が問題視されたことだと言われています。当時日中戦争で日本を迎え撃ったのは国民党であることは歴史的事実だと思いますし、その時の国旗はどう考えても青天白日旗だと思いますので、史実を忠実に再現しただけだと思うのですがね。なかなかうまく行かないですよね中国は。
さらに言うと、正式上映に際して13分ほどカットされているそうです。代表的な部分だと、租界に住む台湾人役で出演していたはずの阮経天(イーサン・ルアン)、出演シーンが丸ごとカットされています。中盤のあるシーンで租界側の電信柱に吊るされた遺体が突然映り込むのですが、あれが阮経天が演じていた役。本当はそうなるまでのシーンがあったのですがカット。あとは、クライマックスの王千源や李晨ら”敢死隊”の戦闘シーンもカットされているそうです。残念。
出演者も非常に豪華なわけですが、特にこの人が主役というようなことはなく、主要キャストは全員主演みたいな感じです。あっという間に犠牲になってしまったりするのですが、どの役も印象的で魅力的です。個人的には電話線の刀子がもう最高ですっかり李九霄に魅了されてしまいました。張譯なんかはもうどうしようもない臆病者の役なんですが、ものすごい説得力があるんですよ。杜淳も李晨も王千源も欧豪もどこを取っても素晴らしい、挙げ始めたらきりがないですね。劇中はほぼほぼ激しい銃撃戦なので、苦手な方も多いジャンルかとは思いますが、一見の価値ある映画だと思います。
※2021/6/19追記:日本での劇場公開が発表されたので、邦題をタイトルに追記しました。(そのまま八佰の方が良かったと思う。)とは言え、この作品をスクリーンで観られるのは感動です。2021年秋頃とのことなので、期待しましょう!
作品情報
原題:八佰
英題:The Eight Hundred
制片人:王中磊、梁静、朱文玖
監督:管虎
脚本:管虎、葛瑞
出演:黄志忠、欧豪、王千源、姜武、張譯、杜淳、魏晨、李晨ほか
上映時間:147分(公開版)
中国公開日:2020年8月21日
あらすじ
1937年第二次上海事変末期、中日双方は激しい戦いを三ヶ月にわたり続けていた。第88師524団の謝晋元率いる420名余りの兵士たちは、最後の防衛線を守るべく四行倉庫で孤軍奮闘していた。
主な登場人物
※【請注意】ざっくりですがネタバレありの人物紹介です。
端午(欧豪)
老葫蘆の甥。湖北保安団の一員として上海にやって来たが、日本軍の攻撃を受け、保安団は散り散りに。524団に接収され四行倉庫に入る。四行倉庫から、日本軍の捕虜となった叔父の老葫蘆が処刑される様子を見ていた。3日目、青天白日旗を屋上に立てた際、日本軍の爆撃機の銃弾を受けてしまい犠牲となる。
小湖北(張一俊)
端午の弟で、端午とともに四行倉庫に入ることになる。四行倉庫で、同年代の戦友や兄の死を目の当たりにする。最後は敢死隊として、部隊撤退のための犠牲となった。
羊拐(王千源)
国民革命軍33師の兵士。偏屈な性格。実は女性経験がない。最後は敢死隊を組み日本軍と戦闘、部隊の撤退のために犠牲となった。
老鉄(姜武)
ほら吹きの小心者。顔に銃弾を受けたところを、老算盤に助けられ九死に一生を得る。最後は、部隊撤退のために日本軍と対峙する敢死隊を鼓舞すべく倉庫の屋上で「定軍山」を歌った。
老算盤(張譯)
元々は保安団の参謀。散兵だったところを路上で接収され四行倉庫に入る。臆病でいつもおどおどしており、銃を撃ったことがなく戦うこともできず、一度は端午とともに四行倉庫から逃げようとする。それでも、銃弾を受けた老鉄を勇気を振り絞り助け、指を数本失う。再び倉庫から脱出しようとした際、端午に見つかり銃を向けられるが、端午は老算盤を見逃した。
謝晋元(杜淳)
四行倉庫の戦いの最高指揮官。4日5晩にわたる戦いに身をささげた人物。
朱勝忠(魏晨)
班長という身分ゆえ、逃亡兵にはかなり厳しい態度をとる。当初は羊拐や老鉄、老算盤と衝突していた。
斉家銘(李晨)
四行倉庫で日本軍人を処刑する際、端午の銃を取り彼を鼓舞した。常に自分を犠牲にする覚悟ができており、一度は爆弾を身体に巻き付け、日本軍に捨て身の自爆をしようとしていた。青天白日旗を四行倉庫の屋上に立てた際も端午のことを気にかけており、結果銃弾を受け瀕死となった端午を看取る。最後は、仲間らの撤退のために敢死隊となり、日本軍と銃撃戦を行い犠牲となった。
刀子(李九霄)
租界側から四行倉庫の戦いを見ていた商会の青年。租界側の人々は、四行倉庫に電話線を届けるため、両岸を繋ぐ橋を渡ろうとするが、何人もが橋の途中で銃弾に倒れた。刀子は橋の上に残された電話線を回収し、対岸の四行倉庫に届けた瞬間に銃弾を受け犠牲となる。(橋を渡るシーンでは15回も転び、全身傷だらけになったそう。)
老葫蘆(黄志忠)
端午と小湖北の叔父。湖北保安団の団員。日本軍の捕虜となり、処刑される。端午はその瞬間を四行倉庫から見ていることしかできなかった。
楊惠敏(唐芸昕)
ガールスカウトの女性。蘇州河を渡り、四行倉庫に青天白日旗を届けた。
八佰メインキャスト✕時尚芭莎✕尹超のコラボカット