今回は2021年1月15日に中国で公開されたSFサスペンス映画「緝魂」です。主演は台湾の人気ベテラン俳優の2人張震&張鈞甯。この映画のポスタービジュアルを見て驚いた方も多いはず。なんとあのイケメン張震がスキンヘッドにして激痩せしているのです。
本作で張震が演じたのは癌に侵された検察官。癌は全身に転移しており、脳まで転移するのも時間の問題…抗がん剤治療を続け痩せてしまった姿を表現するために12キロも減量したのだそう。このビジュアルが公開された時は、かなり話題になりました。
「緝魂」は、今から10年後くらい先の近未来2030年が舞台になっています。技術が進歩しており、おそらく台湾の西門町と思しき街並みや登場人物たちが持っているデバイスなどが近未来的なものになっています。そんな近未来で起こる殺人事件から、「人間の魂とは何なのか」を考えさせられるSFサスペンスに仕上がっています。テクノロジーの発展の先に人間は一体何を求めるのか、肉体という縛りを解き放ち、人間の魂は永遠の時を生きることができるのか…個人的には、流行りのシン・エヴァや呪術廻戦にも通じるようなものを感じたりしています。
原作は江波の短編SF小説「移魂有術」。原作と映画は少しテーマの軸が異なっているようですので、原作も目を通してみたいなと思っています。映画の方は、「この人物の正体は一体誰なのか」という点に注目しながら観てみると、より深く楽しめるのではないかと思いました。
個人的はかなり好きな作品です。雰囲気としては、黄渤の「記憶大師」と似ているかなと。「緝魂」を鑑賞されたら、「記憶大師」も観てみていただければと!
※2021/4/7追記
4/14からNetflixで配信されるとのことで、邦題をタイトルに追記しました。
目次
作品情報
原題:緝魂
英題:THE SOUL
監督:程偉豪
脚本:程偉豪、金百倫、陳彦斉
出演:張震、張鈞甯、孫安可、李銘順、張柏嘉
上映時間:124分
中国公開日:2021年1月15日
あらすじ
王氏集団のトップ王世聡が自宅で撲殺される事件が発生した。検察官の梁文超と刑事の阿爆の夫婦が事件捜査を担当することになるが、捜査を進めるうちに、被害者の息子王天佑、若い後妻李燕、長年のビジネスパートナー万宇凡、亡くなった前妻唐素貞ら事件関係者たちの複雑な関係性に直面する。そして事件の裏に隠された驚くべき秘密が2人を翻弄する…。
主な登場人物
梁文超(張震)
検察官。癌に侵され、癌細胞は全身に転移している。
阿爆(張鈞甯)
刑事。癌に侵された夫を献身的に支えている。
李燕(孫安可)
殺害された王氏集団のトップ王世聡の若い後妻。王世聡の死後、王氏集団のトップに就任。
万宇凡(李銘順)
王氏集団の継承者のひとり。RNA手術研究の第一人者。
唐素貞(張柏嘉)
王世聡の前妻。自宅のベランダから飛び降り自殺していた。
王天佑(林暉閔)
王世聡と唐素貞の息子。
ネタバレ
※【請注意】以下、詳細なネタバレがあります。
検察官の梁文超と刑事の阿爆夫妻、阿爆が妊娠し喜ぶ2人だったが、癌に侵された梁文超の投薬を増やさねばならなくなっていた。そんな2人に医師は新しい治療法であるRNA細胞修復手術を紹介するのだった。
そんなある日、医療、教育。物流など様々な事業を手掛ける大企業・王氏集団のトップ王世聡が自宅で殺害される事件が起こる。梁文超は妻の妊娠をきっかけに復職し、王世聡事件を担当することになる。現場で倒れていた王世聡の後妻李燕の証言などから、犯人は王世聡と自殺した前妻唐素貞との息子王天佑と特定される。李燕によると、王天佑は母親は父親のせいで死んだと思っており、唐素貞が行っていたという謎の儀式で、唐素貞の魂を呼び戻して王世聡に復讐したのだという。
梁文超は、李燕以外の王氏集団のもう一人の相続人である万宇凡に目をつける。王氏集団の経営権や王世聡の財産はすべて李燕に相続されることになっており、李燕が王世聡を殺すことはないと万宇凡は証言する。ところが、家政婦の証言によると、李燕と王世聡は万宇凡の紹介で出会ったようで、李燕は王氏集団の児童施設の出身だという。凶器に残った痕跡から犯人は左手で被害者を殴ったとする報告から、梁文超は調書に左手でサインをした李燕にはまだ疑いがあると考えていた。そして、唐素貞の死の真相を調べるように阿爆らに指示するのだった。
唐素貞は自殺当日、王世聡についての情報を流すと記者を呼び出しており、その記者は自殺の様子を撮影していた。その時、唐素貞がばら撒いた紙は謎のままだった。王世聡と唐素貞の夫婦仲は結婚当初から冷めきっており、それが原因で唐素貞のうつ病が悪化。唐素貞は王世聡を呪う儀式を行った後、ベランダから飛び降り自殺をしていた。そして、不可解なことに李燕の部屋には監視カメラが設置されており、残された映像には、李燕が激しくうなされたり、いるはずのない唐素貞に話しかける姿が映されていた。李燕の精神鑑定に異常はなく、取調べでは「引っ越して来た時から誰かがいるような気がして、唐素貞が自分の体を乗っ取ろうとしているのだ」という。
梁文超が李燕の部屋の監視カメラ映像を片っぱしから見ていると、親密な様子の万宇凡と李燕の映像が残されていた。万宇凡はRNA手術による人間の脳の複製研究を行なっており、かつて唐素貞とのスキャンダルが報道されたこともあったのだった。そして梁文超は、監視カメラの映像から、ある時点で李燕が大きく変化していることに気づく。最も大きな違いは、王家に引っ越してきた当初は右利きだったのが、現在は唐素貞と同じ左利きになっており、サインも以前とは全く違うものになっていたことだった。
梁文超と阿爆は万宇凡に聞き込みを行い、彼がRNA手術で王世聡の延命を行おうとしており、すでにRNA手術が臨床段階になっていたことを知る。そして唐素貞の自殺現場に万宇凡もいたことから、万宇凡と唐素貞が手を組んでRNA手術により王世聡に唐素貞の脳をコピーしたのではないかと問い詰めるが、追い返されてしまう。
警察は王天佑の潜伏先を突き止め、彼を逮捕する。そして、王世聡の遺体は荼毘に付された。そして王世聡のスマホに残っていた犯行時の音声の録音データが修復されたが、録音は王世聡が王天佑と対面する所までしかなかった。梁文超は、王天佑と李燕を取調室で対面させることにする。李燕は泣きながら王天佑のことを「佑佑」と愛称で呼び、自身を「媽媽(母)」と呼称し王天佑に「あいつを殺してくれてありがとう」といい倒れるのだった。
一方、梁文超の容態は悪化、ついに癌細胞が脳まで転移しており緊急手術を受けていた。阿爆はRNA手術を受けられることになったことを梁文超に告げた。だが、癌細胞により脊髄などが破壊され一人では動けない身体となっており、RNA手術では身体については修復不能だった。
梁文超は、事件の資料を見直すため阿爆から王世聡事件のデータを預った際、王世聡のスマホの録音データを阿爆が故意に削除していたことに気づく。阿爆は、梁文超にRNA手術を受けさせるため、万宇凡と李燕と接触し、重要な証拠となる録音データの後半部分を削除したのだった。
一方、万宇凡は李燕を殺害しようとしていた。取調べで李燕が発した「王氏集団は私のもの」という発言は、王世聡の録音データに残されていた彼の死の間際の音葉と同じだった。梁文超は、李燕こそが王世聡の真犯人で、その正体は唐素貞ではなく王世聡であると李燕に迫る。李燕は「妻の気遣いを無駄にするな、我々は同じ船に乗っているのだから」と告げ、その場を去る。
ある日、万宇凡が梁文超の自宅を訪ねてきて、全ての真相を明かした。王世聡と結婚した唐素貞、対外的には仲睦まじい夫婦だったが、実際は王世聡は唐素貞に冷たく当たっていた。そして唐素貞の自殺後、王世聡の病が発覚する。そこで、大金に目が眩んだ李燕を王世聡の後妻として、そしてRNA手術で王世聡の脳を複製するための器として連れてきたのだった。そして脳の複製だけでなく、王世聡は自身の精子を使って李燕の身体を妊娠させ、永遠に王氏集団を支配するという計画を実行しようとしていた。そして、李燕に警戒心を持ち始めた王世聡は、李燕によって殺害された。万宇凡は李燕を殺害することで全てにケリをつけようとしたが失敗したのだった。
梁文超と変装した万宇凡は、李燕を訪ね彼女を襲撃した。その後、王氏集団の李燕が経営から離れるなどのニュースが流れていた。万宇凡は王世聡のベッドの上で自殺し、李燕は法廷で自身の罪を認めたのだった。
考察&ラストシーンの解説
なぜ唐素貞は自殺に至るほど追い詰められたのか
万宇凡博士は、王世聡は結婚してからずっと唐素貞に対して冷たく当たっていたと証言します。唐素貞のうつ病は悪化し、王世聡には愛人がいるということ知って、呪いの儀式の果てにベランダから飛び降り自殺をしてしまいます。
唐素貞が自殺の直前にばらまいていた大量の写真の内容については劇中具体的に明らかにされていないのですが、王世聡が愛人といる現場写真であることは間違いないです。ではそこに写っていたのは誰なのか。
これはおそらく万宇凡博士だったのではないかと思います。当初、RNA手術によって李燕に複製されたのは前妻の唐素貞とされていました。防犯カメラに写っていた万宇凡が李燕に接する態度は、まるで恋人に触れるような仕草で、唐素貞と関係があったと判断できるようなものでした。
しかし、物語が進んでいくと李燕に複製されたのは唐素貞ではなく、王世聡だったことが発覚します。すると、万宇凡博士と王世聡はビジネスパートナー以上の特別な関係だったという事実が紐解かれていきます。唐素貞からしてみたら、信頼していた万宇凡からも裏切られたという衝撃は大きかったでしょう。
最後の李燕はいったい誰なのか
阿爆が証拠を隠滅した罪を被って自首した梁文超。裁判の後、夫婦の自宅の車いすが片付けられていくシーンから、おそらく梁文超は亡くなったものと推察されます。そして事件から1年後、阿爆も自首して刑務所に入ります。
そわそわしながら誰かを探す様子の阿爆のもとに近づいてきたのは髪を短く切った李燕でした。李燕を見た瞬間、涙を流す阿爆。そんな阿爆に李燕は、かつて梁文超が阿爆にした、口角を上げる仕草をします。
そう、梁文超は万宇凡博士の最後のRNA手術により李燕に複製されていたのです。
梁文超が万宇凡とともに李燕こと王世聡を訪ねた際、王世聡が万宇凡のことを「最も信頼できる人物だったが、最大の過ちでもあった」と言った瞬間、万宇凡が王世聡にガスのようなものを吹きかけるシーンがあります。おそらく梁文超と万宇凡は、李燕こと王世聡に再びRNA手術を施し、梁文超を李燕に複製したのです。そうであれば、裁判で李燕があっさりと罪を認めたこと、裁判でRNA手術のことが明るみに出なかったことなど、すべてのつじつまが合います。
RNA手術で李燕となった王世聡は、李燕の身体を利用して体外受精を行い、自らの子孫をその身に宿し、いずれはその子孫にまたRNA手術で乗り移り、永遠に王氏集団を支配するということを画策していたわけです。その負の連鎖そして王世聡を止めるために、梁文超と万宇凡は、李燕に梁文超の脳を複製したのです。
梁文超としては、自分のために証拠を改竄してしまった阿爆を守るためという思いで実行したことだったのですよね。