今回は、2015年の映画「烈日灼心」です。監督は曹三平が務め、鄧超、郭涛、段奕宏の名優3人が主演を務めたサスペンス映画です。原作は女性作家須一瓜の長編小説「太陽黒子」。
7年前の事件の秘密を隠しながら、孤児の少女を育てている3人。身を潜め、善良な市民として生活していたところに、ある刑事が現れたことで追い詰められていきます。
この7年前の事件、ため池のほとりにある別荘で一家5人が惨殺、その内若い女性には乱暴された後がありました。事件直後、別荘から逃げる3人組が目撃されており、この3人が鄧超と郭涛たちなわけです。
2人は秘密を隠しながら社会に紛れて、普通に仕事をして生活しています。7年前の事件を洗い直そうとする伊警官が資料を見ていると、乱暴された女性だけが殺害されたのではなく、心臓病で亡くなったというのです。そして、そばにいた部下の「同性愛者が女性を乱暴するのか?」という言葉が伊警官の耳に残ります。
このシーンは実は重要な伏線で、最初の方から鄧超と郭涛が山奥で二人暮らししたり、大怪我で寝込んでいる郭涛を見ての焦りっぷりや行動が、いちいち同性愛っぽい雰囲気があるのです。鄧超演じる小豊の性的嗜好はそっちなのかとうまく物語の展開の中で誘導されているので、後半の展開も「やっぱりそうなのね」とすんなり騙されてしまうわけです。そして最後、衝撃的真相につながっていきます。
本作は、映画祭でも高い評価を得ていて、2015年の上海国際映画祭では、曹保平が監督賞、鄧超、郭涛、段奕宏の3人が主演男優賞を受賞しました。通常、主演男優賞などは対象者1名であることがほぼほぼだと思いますが、本作に関しては3人とも非常に素晴らしく、3人での受賞も納得です。
特に鄧超の演技は凄まじく、撮影時には精神的に不安定になるほど役に入り込んでいたそう。辛小豊という人物の焦燥感、危うさなんかが繊細に表現されていて、息を呑むシーンばかりです。もちろん段奕宏も郭涛も素晴らしいのですが、鄧超は突出しています。特に後半はもう鄧超から目を離すことができません。
実は、「烈日灼心」は灼心シリーズという曹保平監督三部作の1作目という位置付けです。2作目は范冰冰と黄軒の「她殺」、そして3作目は黄渤と周迅の「渉過憤怒的海」。3作目の公開が待たれるばかりです。
目次
作品情報
原題:烈日灼心
英題:The Dead End
監督:曹保平
脚本:曹保平
出演:鄧超、郭涛、段奕宏、王珞丹ほか
上映時間:139分
中国公開日:2015年8月27日
あらすじ
7年前、福建省西隴で凄惨な一家殺人事件が発生する。楊自道、辛小豊、陳比覚の3人は現場から逃亡し、それぞれ厦門で身を潜めながら生活していた。楊自道は親切なタクシー運転手に、辛小豊は協警(警察の仕事を補助する民間人のようなもの)に、逃亡中に不慮の事故で精神異常をきたした陳比覚は漁夫となり、3人は孤児の少女尾巴を引き取り育てていた。
ある日、小豊が所属する隊の担当として警察の伊谷春が着任する。伊谷春は、鋭い直感で7年前の事件に小豊が関係していると睨む。一方、自道は街で窃盗に遭った女性を助ける。その女性は偶然にも伊谷春の妹伊谷夏だった。
主な登場人物
辛小豊(鄧超)
協警。秘密を隠して毎日不安な生活を続けている。
楊自道(郭涛)
タクシー運転手。老人や妊婦を乗せたりととても親切。
陳比覚(高虎)
漁夫。逃亡時の事故で精神がおかしくなっている。3人で引き取った娘の尾巴と毎日一緒に過ごしている。
伊谷春(段奕宏)
小豊が所属する班にやってきた警察官。鋭い洞察力と観察眼があり、小豊と7年前の事件の関係を疑う。
伊谷夏(王珞丹)
伊警官の妹。街でひったくり被害に遭ったところを自道に助けられ、自道に好意を抱くようになる。
ネタバレ
7年前、福建省西隴のとある池の近くの別荘で一家5人が殺害される事件が発生する。楊自道、辛小豊、陳比覚ら3人の青年たちは、現場から逃亡していた。その途中、小豊が何故か現場に戻ると言い出す。小豊を止めようとした陳比覚は、誤って木の枝が瞼に刺さってしまう。
数年後、3人はそれぞれ厦門で身を潜めながら生活していた。楊自道は親切なタクシー運転手に、辛小豊は協警に、逃亡中の事故の影響で精神異常をきたした陳比覚は漁夫となり、3人は孤児の少女尾巴を引き取り育てていた。
ある日、小豊が所属する隊の担当として警察の伊谷春が着任する。伊谷春は、鋭い直感で7年前の殺人事件に小豊が関係していると睨んでいた。伊谷春が事件の話をすると、明らかに同様を隠せない小豊。
一方、自道は街で窃盗に遭った女性をみかけ、犯人らを追跡し、怪我を負いながらも女性の鞄を取り返す。目立ちたくない自道は、その場をすぐに立ち去り、自宅で自ら怪我の治療を行う。小豊が家に戻るとそのには大怪我で寝込んだ自道が気を失っていた。小豊はすぐに自道を病院に連れて行き、治療を受けさせた。すぐに退院手続きを取るが、その際、偶然にも伊谷春と自道が助けた女性と遭遇する。その女性はなんと伊谷春の妹伊谷夏だった。
伊谷春に目をつけられていると察知した自道は、尾巴を手放し身を隠そうとする。しかし、小豊が里親に渡した健康診断書は偽造で、尾巴は心臓に病気を抱えており何もしなければ1年の命なのだと告白する。2人は尾巴になんとか手術を受けさせようと奔走する。
一方、伊谷春と小豊は高層マンションからの飛び降り自殺の現場に臨場していた。どうやら死亡した男性は同性愛者だったようで、部屋に戻ってきてパートナーの男性も自殺を図ろうとするが、間一髪のところで小豊が救出する。
伊谷春はその晩、7年前の事件を担当した師匠を訪ね、強姦された被害女性には別に子供がいた事を知る。その子供は見つかっておらず、成長していれば7歳くらいだという。
伊警官の妹小夏は、手術を迎えた尾巴の病室にやってくるまでになっていた。年末、小夏は自道への好意を告白するが、自道は答えをはぐらかすのだった。
尾巴の手術のために金が必要だという小豊に、伊谷春は金銭的な支援をしようとするが、小豊は申し出を断った。一方で小豊は、高層マンションで助けた台湾人建築士のデビッドと親密になっていた。怪しんだ伊谷春が2人を尾行すると、2人が情事に及んでいる姿を目撃してしまう。小豊が同性愛者だと知り衝撃を受けた伊谷春だったが、同性愛者が女性を強姦するはずがないという考えのもと、7年前の事件と小豊は関係がなかったのだと思うようになる。
伊谷春は、小豊の住居を訪ねる。誰もいない部屋を観察していると、怪しい配線に気付く。配線を辿ると家主が小豊と自道の生活を盗聴・盗撮しており、伊谷春はそのメモや写真から2人が一緒に暮らしていることや7年前の事件の真犯人が彼らである確証を得る。その時、小豊から指名手配犯の台湾人2人を見つけたと連絡が入る。
犯人たちを逮捕すべくホテルに向かった伊谷春と小豊ら。しかし銃を所持していた犯人たちは、警察たちを射殺しビルの屋上へと逃げる。犯人を追う中で、ビルから落下しそうになった伊谷春は死を覚悟し、小豊に自首するように告げる。そこに増援が駆け付け、無事犯人は逮捕され、伊谷春も救出される。
任務の後、伊谷春は小豊に家主が盗聴していたことを明かす。すると、その場は包囲され、ついに小豊は逮捕される。自道も、尾巴のことを小夏に託し、逮捕された。
その後、伊谷春はデビッドから、小豊が同性愛者でないことを明かされる。収監された小豊に面会に行った伊谷春は、小豊がわざと自分が同性愛者だと思わせるように、伊谷春のデスクからよく見える場所にデビッドを迎えに来させていたのだと指摘する。小豊は「自分たちは良い父親だった」と最後に告げた。そして、辛小豊と楊自道の死刑は執行された。
刑の執行後、別の事件で逮捕された犯人が7年前の一家殺害事件も自分の犯行であると自白した。その場に3人はいたが、直接手を下したわけではなかった。そしてその場にいた子供を連れて帰り、育てたのが尾巴だったのだ。
なぜ、2人が甘んじて死刑を受け入れたのか。伊谷春は、尾巴の将来を考え、真実を知った時自分たちが生きていては彼女の苦しみになると思ったのだろうと推測する。そして、陳比覚もいつの間にか姿を消していた。実は陳比覚は精神異常のフリをしていただけだった。しかし、尾巴に会えなくなり、2人の後を追って海で投身自殺をしたのだった。