8月25日、中国映画「夏、19歳の肖像(原題:夏天19岁的肖像)」が日本での公開初日を迎えた。シネマート新宿の初回上映後には、同名原作小説の著者である島田荘司先生が舞台挨拶に登壇し、主演の元EXOメンバー黄子韜タオの撮影裏話や、原作と映画版との違い、中華圏の本格ミステリ概況など貴重なエピソードを披露した。
島田先生は、黄子韜のことを「タオちゃん」と呼び、初対面時には日本語で「わぁ、かっこいい」と言われたというエピソードを披露。また、タオについては華奢な印象を持っていたようだが、実際会ってみるとジャッキー・チェンに似ているという印象を持ったそう。将来はアクション俳優をやりたいという夢を先生に語り、自身のMVを撮影の合間を見つけては先生に見せていたという。貴重なタオの撮影時エピソードに会場の海浪(黄子韜のファン)たちは歓声を上げていた。2016年の撮影時から島田荘司先生は、SNS上でロケ地訪問の様子をシェアし、話題となっていた。
本作は、バイク事故で入院を余儀なくされた大学生・康乔が窓から見える向かいの家に住む美女に惹かれ望遠鏡でその生活を観察するようになり、彼女の秘密と真実を確かめようとする物語。
以下、舞台挨拶概要。
Q:中国での映画化についてどう思いましたか?
島田先生(以下、「島」):日本から台湾にまず作品が行ってそれから中国に行った。しかし中国での売込みは難しかった。中国と台湾では使用している漢字が異なり、台湾は繁体字で中国は簡体字。台湾は縦書きで中国は横書。中国の人にとっては繁体字を読むことは苦ではないので、台湾から中国に読まれるようになった。その上、中国では編集者が日本語ができ、翻訳ができるという環境にあり、たくさんのミステリ作品が中国で出版された。なので、私にとっては自然なことだった。出版社の持ち込みではなく、私個人に安プロデューサー(大盛国際の社長)からオファーがあり、いいですよと答えた。安プロデューサーは非常に安いお金で映画ができたと喜んでいた。
Q:ダイレクトに映画のプロデューサーからオファーがあったということですか?
島:そう。安いお金のままでいいので、どんどん映画してねという話をした。
Q:原作者として映画化された作品についてどう思われましたか?
島:特に前半三分の二くらいは全く違和感がなく、原作に非常に忠実。喫茶店Rの名前も同じ。だから素晴らしいなと。日本で映画化されたほうが、かなり原作に手を入れて、ストーリーが変わってしまい、違和感を持つことが多いが、中国からみると外国の作家ということもあり、リスペクトが感じられた。違いは後半。原作では律子、映画では穎穎(インイン)という女性が、母親の虚栄心から大きな屋敷に住むために金持ちの老人と同棲するという設定。原作では老人に対して愛情はなく、我慢して生活をしている。映画では、女性脚本家が作品中の穎穎に対する同情があったのではないか、全く愛情なくてというのは悲惨だよね、と。老人に対して愛情がある設定になっていた。青年と別れた後、老人の元へ戻って最期を看取っている。だから青年はまた付き合えるかもしれないという感じで終わるという爽やかなものになっている。途中、親友の彼女が穎穎をなじるシーンで、「両想いのくせに」という台詞に対して「ただの一瞬も恋愛ではなかった」と言い切る。これはちょっとかわいそう。(笑) とても好感の持てる脚本になっていた。
Q:原作当時にはなかったスマホなどについてはどう思いましたか?
島:多くの評論家がよりミステリー色が増したと。スマホでの謎の人物とのやり取りでミステリー色が深まったと思い、違和感はなかった。
Q:2016年の撮影現場のエピソードは?
島:現場プロデューサーのキキさんから招待があり台南に行った。そこでタオちゃん(黄子韜)に会いました。
Q:どこのシーンの撮影でしたか?
島:病院のシーン。使われていない公民館を病院に改造して撮影した。最初に会ったのはホテル。洗面所から出てきたタオちゃんが(島田先生を見て)「わぁ、かっこいい」と言った。お世辞でも嬉しかった。気を使う人で、とてもチャーミング。別れる時は必ずハグをしてくれる。ハグしたり握手したりした時に分かるが、それまでタオという人は華奢な人かなという印象があった。実際は、ジャッキー・チェンのようなしっかりとした体つき。聞いてみるとアクション俳優をやりたいと。それからMVを見せてくれた。ヘリコプターから海に落とされる撮影で、落ちるのは人形だけど、水中からは自分自身だと。撮影の合間、モニターチェックが終わるとこっちに来て、こんな撮影をした、こんなMVを撮ったと、とても目立ちたがり。自信もある。
Q:現在の中華圏ミステリの状況は?
島:本格ミステリ作家の数は少ないが、台湾は論理的思考が得意で適性がある。島田賞の応募作品も良い作品が多い。21世紀版の本格を提唱しているが、完璧に応えるものが多い。日本ではなかなか出てこない。日本に先駆けて非常に優れた作品が出ている。中国からの作品も受け入れているが、台湾がリードしている。中国は最初、パターン的なものが多かった。今はその状況から脱しつつあり、台湾はその段階はすでに脱している。