たった1秒映る娘の姿を観るために…張芸謀監督、張譯主演映画「一秒鐘」(邦題:ワン・セカンド 永遠の24フレーム)【あらすじ】【ネタバレ】
映画「一秒鐘」は、中国映画界の巨匠・張芸謀監督の作品です。1970年代の映画が題材になっており、張芸謀自身の経験からインスピレーションを受けているそう。
主演は張譯。映画やドラマで引っ張りだこのベテラン俳優ですね。2020年、張譯が出演した映画「八佰」「金剛川」は、いずれも大ヒットを記録しました。出演作の興行収入は100億元を突破しています。ちなみに100億元俳優は、呉京、黄渤、杜江、沈騰、鄧超、そして張譯。そうそうたる面子ですね。
張譯は「一秒鐘」の後、同じく張芸謀監督の「懸崖之上」でも主演を務めています。こちらは2021年4月末に中国で公開され、「八佰」「金剛川」ほどではないものの、好調な実績を残しています。1930年代の共産党工作員たちを描いた諜戦もの、ということで個人的には好きなジャンルです。観たら記事にします。
張譯が泥や血にまみれている姿を観るとどうしても応援したくなってしまう…(なんだろう、この気持ち)なんとも言えない素朴さに惹きつけられるんですよね。不器用そうなところとか。あ、あれです、映画「壬生義士伝」の中井貴一みたいな!これ共感してもらえる方いるでしょうか。
話を元に戻すと、張譯は映画のプロモーション映像の中で、10歳の頃に観た映画の印象深さ、そしてその映画が張芸謀監督の「紅高梁」だったと語っています。張譯は自分自身も映画の中の人物となり、30年経って張芸謀作品に参加しました。原点とも言える映画人との仕事は素晴らしいものだったでしょうね。
そして、フィルムを盗んだ少女を演じたのは劉浩存。砂まみれで小汚く、少年なのかと思うような見た目で登場します。しかし、話すと小鳥のような可愛らしい声。最後に登場した時は、「初恋のきた道」の章子怡を彷彿とさせる可憐さを備えています。エンディング曲を歌っているのも劉浩存で、なんとも儚く消えてしまいそうな美しい歌声が、映画とぴったりマッチしてます。張芸謀はこういう素朴で可憐な少女を描き出すのがうまいですよね、というか好きですよね。
張芸謀は、「本作をすべての映画を愛する人たちに捧げる」とコメントしています。まだ発展途上で娯楽も少なく情報伝達も成熟していなかった時代、映画は様々な意味を孕んでいたと思いますが、人々の心のよりどころとなっていたことは変わらないですよね。
作品情報
原題:一秒鐘
英題:One Second
監督:張芸謀
出演:張譯、劉浩存、范偉
上映時間:104分
中国公開日:2020年11月27日
あらすじ
1970年代中期、映画は人々にとって心のよりどころとなっていた。西北のとある地、張九声は「新聞簡報」に自分の娘が1秒だけ映り込んでいると聞き、その映画を観るために改労農場から脱獄し逃亡犯となる。映画を追い求める中で、フィルムを盗もうとする少女劉閨女や、映画館の放映員范電影らと出逢う。
主な登場人物
張九声(張譯)
改労農場から逃げてきた逃亡犯。「新聞簡報」22号に娘が1秒映っていると聞き、さらなる重罪が課せられる危険を冒して砂漠を越えてくる。
劉閨女(劉浩存)
母親を早くに亡くし、父親に捨てられ、幼い弟と寄り添いながら生きる少女。弟の勉学のためにランプを借りていた。弟が、不注意でフィルムで作られたシェードを燃やしてしまったことで、映画のフィルムを盗もうとしていた。
范电影(范偉)
2分場のベテラン映画放映員。何十年も失敗することなく映画を上映し続けており、村からの信頼も厚い人物。
ネタバレ
張九声は「新聞簡報」を鑑賞できる場所を探していた。農場礼堂で上映が終わったフィルムが、二分場に運ばれ上映されると知った張九声は、ニ分場に向かおうとする。しかし、子どもがその場からフィルムを盗み出す。子供からフィルムを奪い返した張九声は、フィルムを持って砂漠の中一分場へと向かう。フィルムを奪われた子どもはその後を追い、2人は一分場の映画館に辿りつく。
一分場の放映員の范電影は子どもが劉閨女であると知っていた。一方、張九声はフィルムを盗んだと保衛科に突き出されそうになる。すると、急に外が騒がしくなり、范電影の息子がフィルムを馬車でめちゃくちゃにしてしまっていた。そのフィルムこそ張九声が探していた、自分の娘が一秒だけ映っているという「新聞簡報」22号だった。フィルムを洗い上映できるようにしようと范電影は号令をかける。
フィルムの一部を持ち去ってしまった劉閨女を追って張九声は砂漠へ向かう。フィルムを持って現れた劉閨女は、いらないといって張九声にフィルムを渡す。弟のために人から借りたランプのシェードを燃やしてしまい、日々追われているという。そのシェードはフィルムで作られたものだったので、盗み出したのだった。
映画館では、大掛かりなフィルム洗浄作業が始まっていた。そこに戻ってきた張九声もフィルムを拭く繊細な作業に加わった。そこにいた劉閨女を追い返し、後をつけると刘闺女は弟と暮らす家に入っていった。いじめる奴らがいたら言えと、張九声は2人に声をかけその場を去る。
作業に戻った張九声は、范電影とともに乾いたフィルムを巻き取る作業に取り掛かる。しかし、劉閨女が盗んだフィルムの一部を持っていることが范電影にバレてしまう。今度こそ保衛科に連れて行かれそうになった張九声は、自分が改労農場から逃げてきた逃亡犯であることを明かし、娘の姿を観るため「新聞簡報」22号を上映するようにナイフで脅す。
ついにフィルム洗浄作業は完了し、映画を上映を待つ人民たちは熱狂する。映画を上映しようとする張九声のもとに劉閨女が泣き顔で現れる。張九声は、「新聞簡報」のフィルムを劉閨女に預け、彼女をいじめた少年たちにつかみかかる。双方とも取り押さえられるが、劉閨女の姿がなくなっていた。范電影は先に「英雄儿女」を上映し時間を稼ぐ。
劉閨女の家に押し掛けるが、彼女の姿はなかった。映画館に戻り、上映室に行くと22号のフィルムがあった。范電影は劉閨女が届けていったという。劉閨女は映画館の外にいた。
そして、いよいよ范電影は「新聞簡報」22号の上映を始める。上映は終わったが、張九声はもう一度観たいという。2度目の上映が終わった後、張九声は涙を流していた。一秒では足りないという張九声に呆れつつも、范電影はより大きな投影機で何度も繰り返し上映できるようにする。范電影は、張九声が映画を観ている間こっそりと抜け出し、保衛科に連絡していた。
その場に劉閨女にが現れ、家を荒らし弟を脅かしたことを責め立て、上映の邪魔をする。しかし、その場に保衛科が現れ、2人は拘束される。改労農場に連れ戻される直前の張九声に、范電影は記念だと言ってあるものを渡す。そんな范電影に張九声は頼み事をする。
砂漠の中、改労農場へと連行される張九声。范電影が渡してくれたのは娘が映っている部分のフィルム片だった。しかし、それは取り上げられ砂漠に捨てられる。追いかけて来ていた劉閨女が包み紙を拾うも、フィルム片は砂漠に残されたままとなる。
2年後、時代は代わり張九声は改労農場を出る。劉閨女のいる村に戻り、久々に再開した彼女は愛らしい少女になっていた。張九声が連れ戻される時に拾った包み紙を渡すが中身はなかった。砂漠に探しに行くがフィルム片は砂漠のいずこかへ姿を消したのだった。2人は微笑みあった。